2018年1月19日金曜日

第6回  会社・法人に対する支払い請求(債権回収)で大事なこと


みなさん、こんにちは

本日は、当事務所に相談のあった案件から「会社や法人に対する債権回収で重要なこと」についてお話します。


Aさんが事務所を訪ねてきました。

Aさんは、賃貸マンションから引っ越しをしましたが、家賃の口座引き落としを解除することを忘れていて、マンション退去後も、数か月にわたって家賃を支払い続けていました。
家主は、不動産会社のB社でしたが、間違いに気づき、不動産会社に間違って引き落とされていた振込金を返してくれるように頼みました。
ところがB社は「返す返す」といいながら、1年たっても返還してくれません。
また、敷金(賃貸借終了後に原則借主に返還される預け金)も返すといいながら、返されていません。

Aさんは、「なんとかならないでしょうか?」と相談に来たのです。

以下は、私がAさんに説明した内容です。

今回、Aさんが、賃貸借契約終了後、誤って振り込みを継続してしまった金額については、当然、Aさんに返還を求める正当な権利があります。
(不当利得返還請求と考えた場合、(支払った時から)10年経過すれば、消滅時効成立となり、請求できなくなります。)
また、敷金についても原則返還請求権があります。
敷金について、家主が会社の場合、(敷金を請求できるときから)5年経過すれば、時効が完成します。(請求できなくなります)

相手方に何度も返還請求しても返還されない場合は、法的手続きを含めた以下の方法が有効となります。

司法書士名で返還請求書(返還しない場合は、法的手続きを行う旨)を相手方に送付する。
(私(司法書士)の経験で、相手が真っ当な事業者の場合、だいたい50%は返還されます)
請求書で記載sてある返済期日内に返還がない場合、
裁判所に訴訟提起をする。
(金額が140万以下であれば、司法書士が代理しますので、ご本人が裁判所に行く必要はありません)
判決が出る時点で、だいたい7,8割の事業者は返還してきます。
判決がでても返還しない場合、相手方の口座や取引先に対して強制執行手続きを行います。
(口座や取引先にお金があれば、強制的にお金を取り戻すことができます。)

昨年から返還請求していても1年間も返還しない場合は、相手方について以下のことが考えられます。

1、悪質な業者
2、悪質ではないのだが、お金がない、
3、悪質で、お金がない

私は、過去、金融業界と不動産業界で働いていたので、その経験から申し上げますと
たいてい、(不動産業界においても)真っ当な事業をしている事業者が多いので、2の場合が圧倒的に多いです。
この場合、気を付けなければならないことは、お金が無くて支払いができない業者に対しては、1日も早く、法的手続きを行い、お金を取り戻すことです。

理由の1は、
資金繰りに行き詰まっている業者は、優先順位の高い相手にまず先に払います。お金が無くなってからでは、回収ができなくなります。
優先順位の高いというのは、緊急度が高いということで、訴訟をされていて、強制執行をされる可能性のある場合です。
銀行から、融資を受けている業者は、銀行口座に差押(強制執行)がされると、たとえ、空振り(口座にお金がなくて差押ができなかった)になってその業者がお金をとられなくてもその銀行からは、融資がされなくなり、銀行から借りていた場合は、一括請求されます。その他の銀行や取引先からも一括請求され、破たん状態になることもあります。
信用も一気になくなります。
業者がなにより恐れることです。

理由の2は、
このような業者は、破産してしまう可能性があり、破産してしまったら、お金を取り戻すことが事実上不可能になります。破産する前に迅速に法的手続きを行う必要があります。

理由の3は、返還請求することにタイムリミットがあります。(消滅時効)
時効期間は、まだ大丈夫ですが、理由の1と2より、1日も早い手続きをされることをお勧めします。


以上を説明したところ、
Aさんは上記説明を理解頂いて、Aさんから法的手続きの依頼をうけました。

速やかにB社に対して「返還請求書」送付し、返済期日までに返済もなく、返済交渉にも応じませんでした。

速やかに訴訟を提起したところ、B社は{分割の支払い}を希望してきましたが、
B社の財政事情に不透明なものを感じ、一括での支払いを譲りませんでした。

判決が出た後にB社に請求をしたところ、返済の回答はなく、速やかにB社の口座に差押命令の申立をしました。

AさんからB社の所有不動産の借主の情報を得て、その借主のB社への家賃の支払い(B社からみると賃料請求権=売掛金債権)も差し押さえました。

B社は差押後すぐに「差押命令の取下」を条件に支払いをしてきたので、差押を取り下げました。

迅速な法的手続きによりAさんは、全額の返還をさせることができました。



2016年8月31日水曜日

5回 敷金返還Q&A その1

賃貸人の地位が譲渡された場合の敷金の返還請求

みなさん こんにちは
今回は、当事務所にも過去相談の多かった「敷金の返還請求」についてです。

   Q
         Aさんを賃貸人として賃貸借契約期間中に、家主(賃貸人)がAさんからBさ
          んに変わりました。
          (賃貸物件であるアパートをAさんがBさんに売却した)
          アパートを退去する時にBさんに敷金の返還を求めたところ、Bさんは「私は
          Aさんからアナタの敷金を預かっていない。
          だから私はアナタに敷金を返還する義務は無い。
          Aさんから返してもらってくれ」と答え、敷金を返してくれません。
          Aさんにこの話をしたところ、
          「私は賃貸人ではないから返還する義務は無い。賃貸人であるBさんに請求
           してくれ」と取り合ってくれません。
          敷金の返還義務はどちらにあるのでしょうか?

   
A1
         賃貸借契約期間中に賃貸人の地位が譲渡された場合に、新賃貸人が敷金
         の返還義務があるかどうかについて、法令では、明確な規定はありません。
         この問題に関する判例は古くから多くでています。
         昭和44年7月17日最高裁判決は「建物賃貸借契約において、当該建物の所有
         権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があつた場合には、旧賃貸人に差し入
         れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額について
         その権利義務関係が新賃貸人に承継される。」
         と判示されています。
         つまり、敷金の返還については当然、Bさんに請求できます。
         そしてこのことはAさんに請求できる理由は無いということになります。
    そしてBさんが「Aさんから敷金を預かっていない」とする主張は敷金の返還請
    求をする人に対しては通りません。 (理由になりません)
    敷金の承継の問題はAさんとBさんとの間の問題であり、そのこと(敷金を前賃
    貸人から承継していないこと)を理由として敷金を払わなくて良いと言うことには
    なりません。


2016年7月15日金曜日

第4回 訴訟手続と強制執行手続

    

みなさん こんにちは

請負契約の代金を払ってくれない相手方、そして話し合いについては誠実に対応する姿勢をみせない相手方に対して、法的な手続を行うこともやむを得ないと、(依頼者は)判断しました。

そして、訴訟で勝訴して裁判所の判決がでても、相手側がその内容に従わない場合 どうすれば良いのでしょうか?

    訴訟提起
    
「DさんがE社の依頼に応じて、誠実に請負を履行したのに、
    不誠実な理由で約束を履行しないE社に約束を守らせるには
    任意の交渉ではムリなようです。
    早速手続きにかかります。」

    その後、裁判では、E社の弁護士は「目的物の引渡しを受けていない」
    と主張しましたが、裁判官は目的物を引き渡した記録やE社が代金の
    支払い義務を認識していたこと、等を証拠として認定したので、
    E社の主張は通らず、「E社はDさんに対して50万円を払え」との
    判決が出ました。

    その後、E社は控訴せず、判決は確定しました。
    (E社の弁護士は控訴してもE社に有利な判断は出ないと考えたようです。)
    そしてE社に「代金を払え」と請求しましたが、E社は代金を支払いません。

    強制執行

    「判決が確定しても払わないことってあるんですか?」
    「そうですね。
    コンプライアンスのしっかりした企業や資金がある企業であれば払うケース
    が多いのですが、資金や資産が脆弱な企業や支払をしたくない考えの社長
    が全て取り仕切っている会社では、支払われないこともあります。」

    「判決が出ても代金が支払われないと意味がありませんね」
    「その通りです。
    確定した判決は債務名義と言ってDさんの債権が正当な権利として認められ
    なおかつ、強制執行を申し立てることができるのです。
    E社は支払い請求しても支払わないようなので、強制執行の申立てをしましょう。

    強制執行には大きく分けて不動産に対する執行動産に対する執行債権に対
    する執行があります。

    Dさんから面談時に聞いた情報で、E社の本社は賃貸物件で自社ビルでなく、
    また、他に不動産はないとのことで、不動産執行は除外されます。

     法人に対する動産執行について

    また、動産執行ですが、具体的には執行官が会社に乗り込んでいって、
    会社内の動産に対して差押をする執行手続きです。
    債務者の生活に必要な家財道具は差押は禁止になっていますが
    (民事執行法131条)会社の場合は生活に必要な物品は通常考えられません。

    民事執行法131条により、実印や商業帳簿についても差押は禁止されてい
    ますが、個人の債務者の居宅の動産に比較すると差押可能な動産の範囲
    は広がります。

    もし会社に金庫があってその中に金員や有価証券がある場合には差押が
    できます。
    (金員等は動産となります。
    個人の場合のように差押禁止の金銭66万円までの適用はありません)

    しかし実際は、動産執行は回収目的としてはほとんど利用されていません。
    ただ、執行官が債務者の家や営業所に強制的に入り込んで、調査執行
    する権限を持っているので、債務者の心理的な負担は(個人家屋に動産
    執行する場合は特に)大であり、債務者への精神的な負担を加えるため
    の方策として利用されることもあります。

    債権回収が目的でない動産執行の場合
    司法書士が過去動産執行申立の実務をしていた
    (司法書士が勤務していた)会社は、回収が目的ではなく、不良債権や
    回収不能債権を税務上貸し倒れ処理(損金処理して税法上の対象資産
    から控除するため)するための目的でやっていました。
    (国税当局としては回収不能ですといわれても、本当に回収不能なのか
    どうかの判定についてしっかり回収行為(法的手続きまで回収)をしたうえ
    でないと不良資産とは認めない。)

    債権回収を目的とする動産執行
    極くレアなケースでは、(司法書士の実務経験から)法人の債務者で
    何月何日の何時頃に銀行に納めるために債務者の本店に一時的に
    売上金を集めるという情報が入りました。
    よって、執行官にその時間帯を指定して現場に行ってもらって、
    現金を差押えたという事例があります。
    (勿論執行官は金庫をあけさせる権限がある)

         よって、実際は、債権執行がよく利用されています。
    債権執行とは具体的にはE社の名義の預金口座やE社の売掛金等に差押
    をすることです。

    E社の取引銀行やE社の取引先でDさんはご存じないですか?」
    「はい、その場合強制執行はできませんか?」

    「いえ、できます。
    しかし、その場合は推測で銀行口座を指定して申立てするので、
    確実に執行できるかどうかわかりません。」
    「あてずっぽうということですか?」
    「はい、しかし債務者の公にしている情報や他の情報から推測して
    指定しますが、結構当たることもあります。勿論外れることもありますが。」

    「私の友人が同じデザイナーでE社と取引があるので、
    何か情報があるかを聞いてみます」

    その後、Dさんの聞いた情報を基にE社の口座を差押えることができ、
    請求金額全額について回収ができました。

次回は「敷金返還Q&Aその1 大家さんが変わった場合の敷金の返還」についてです。

2016年7月2日土曜日

第3回 代金の返還交渉 ~相手方との交渉~

    みなさん こんにちは

高知県(幡多郡)四万十市中村の司法書士事務所です

今回は 代金を払ってくれない相手方に「払ってください」と交渉する場面です。

特殊な場合を除いて、通常法的手続きを行う前に任意の交渉を行い、支払ってもらうよう努力します。

法的手続きは費用も時間もかかります。
このような手続を経ずに相手が任意交渉で支払ってくれれば、コスト面でも、時間面でも一番良いことです。

    E社との交渉
    司法書士がE社の担当者と話しをしたところ、
    担当者は「確かにDさんと請負契約を締結した。
    仕事の目的物も受領している。
    代金を支払っていないのは、受領した目的物が当社の要求水準に
    達していないからだ」
    の旨の主張をしました。

    「しかし、代金請求をした時点では代金の支払い義務を認めたうえで、
    支払いの猶予を求めていますよね。
    要求水準に達していることを前提としているのではないのですか?」
    「これ以上は、当社の委任した弁護士に対応してもらうので、
    そちらに連絡してください。」

    以上の内容をDさんに説明しました。
    「そういうこと(要求水準に達していない)は(今までE社から)言われたことは
    ありませんでした。
    しかし、仕事の目的物が要求水準に達していない場合は、代金を支払わなく
    て良いのですか?」

    仕事の完成品に欠陥がある場
    「民法では次のような定めになっています。
    注文者は仕事の目的物に瑕疵がある場合は瑕疵の修補を請求することが
    できる(民法634条1項)

    注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求
    をすることができる。(民法634条2項)
    仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することがで
    きないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。(民法635条)

    ※瑕疵とは 本来あるべき機能を有していないこと、欠陥があること

    瑕疵があった場合は損害賠償を請求することができるので、その損害賠償
    金額をもって請負代金との相殺をした場合は請負代金を実質減額したり、
    ゼロにすることが可能です。
    よって「代金を払わなくてもいいんだ」という主張の根拠としては上記の法律
    の定めがあるわけです。」

    審理
    
「要求水準に達しているかどうかが裁判で争われた場合は、どのように審理
    されるのですか?」
    「良い質問です。
    双方が『私は要求水準の目的物を作った』『目的物は要求水準に達しない』
    と争っている場合に裁判官がどちらのいうことが正しいかを判断します。
    正直、デザインとかの芸術的要素を有する性質の判定は難しい。

    例えば、建築業者が注文住宅の発注を受けて、建物を完成したところ、
    住宅の床が傾いていたり、窓が開かないとか客観的な事象があれば、
    欠陥住宅であることは誰が見てもあきらかですよね。

    しかし、例えば、「この絵画が100万円するものだ。」
    「いや、1円の価値も無い」と双方が争った場合は、客観的な評価が困難です。
    デザインが良いか悪いかはどうしても注文者の主観的な要素がある程度の
    範囲を占めます。

    しかし、主観的な要素が大きい場合に、代金を支払いたくないために注文者
    が「要求水準未達成」といえば、代金を支払わなくて良いことになり不合理です。
    他の事象から本当に要求水準に達していないかどうかの判断材料を探せるこ
    ともあります。

    注文者が目的物を活用しているかいないかの事実や目的物を引き渡した
    時点では「何ら瑕疵修補請求もしないのに代金を請求したら突然
    (瑕疵について)言い出したとかも判断材料のひとつになるかと考えます。」

    「また、瑕疵修補請求権(欠陥がある部分を修補するよう請求する権利)や
    損害賠償請求権、契約解除権は目的物引渡しの時から1年を経過してしまう
    とその後は行使することが出来ません。(民法637条1項)

    だからE社が目的物を受領していないと主張しない限り、代金の減額や支払
    わないとする主張は通りません。」
    「E社が目的物を受領していないと主張した場合に、引き渡したことの証拠が
    必要になるのですね。」
    「その通りです」

    その後、E社の代理人である弁護士から連絡がありました。
    主張の概要は以下の通りです。

    目的物の引渡しの事実を否認
    「代金請求についてですが、E社がDさんと請負契約を交わした点については
    認めます。
    代金が50万円と言う点についても同様です。
    しかし、Dさんが作成した目的物はE社の要求水準に達していないので、
    引渡しを受けていない状態です。
    よって、E社は支払い義務がありません」

    DさんにもE社の主張を伝えました。
    「引渡しをうけていないとはどういうことですか?確かに引き渡しましたよ。」

    「以前説明したように、引渡しを受けたことを認めると損害賠償請求の行使
    が(引渡しから1年以上経過しているので)できないことを知っているから、
    引渡しを受けてないと主張しているようです。
    これは裁判で争うしかないようですね」

    「私もE社の不誠実な態度には驚いています。
    今後もE社とは関りはないので今後の業務には影響しません。
    訴訟提起してください」

    次回は「訴訟手続」をお送りします。

2016年6月27日月曜日

第2回 代金の返還請求
~相手が仕事の不備を理由に代金を支払わない。
その2 代金請求のための準備

    「(消滅時効が完成するまで、)今から、半年くらい
    ありますが、急いで相手方に請求したほうが良いでしょう。

    消滅時効とは一定期間、権利が行使されないと権利が消滅
    する民法で定められている制度です

    具体的には内容証明郵便で催告書を送り、相手方に届いた日から6ヶ月
    以内に訴訟を提起すれば催告書を送った日がまだ消滅時効が完成して
    いない日であれば時効の中断になります」
    「お願いします」

    請負代金を請求するための準備事項

    証拠の収集

    「それでは、ひとつひとつ確認していきます。
    相手のE社との間で代金はいくらで取り決めましたか?」
    「50万円です。」

    「その金額について何か記録にのこっていますか?
    または、取り決めのときに誰か他にその場に居合わせた人がいれば
    証人になってもらう方法もあります。」
    「記録と言っても書面にはしていないし、
    会社の担当者と打ち合わせしただけですから・・・」

    請求の記録
    「見積り書や請求書は発行しました?」
    「いいえ、請求書なんかは作っていません」
    「あなたから、相手の会社に請求したときに相手の担当者は何と
    いってました?」

    「最初はそのうち払うと言ってましたが、いつまで経っても払われず、
    ずるずると今に至っています。」
    「その交渉の記録はありますか?」

    交渉の記
    
「電話で話したことに関しての記録は無いですが、メールで請求した
    ものについては返信の記録があります。」
    「それは、証拠になります。
    また、仕事の目的物であるデザインを相手方に引き渡した記録はありま
    すか?」

    仕事の完成品の引渡し
    
「全て電子メールの添付ファイルで送信したのでメールの送信記録があ
    ります。」
    「それも証拠になります」

    「相手に仕事の完成物を引き渡したことは重要なんですか?」
    「請負契約による代金請求の訴訟手続きでは『契約があったこと』
    と『仕事を完成した事実』を『請求する者』(訴訟手続においては原告とい
    います。この場合Dさん)が証明することが必要となります。

    相手が、上記事実を認めている場合は証拠等で証明する必要はないの
    ですが・・・
    代金を払わない人は往々にして「そんな契約はしていない」とか
    「仕事の目的物を受領していない」とか言う場合もあるので・・・

    代金支払時期を決めてない場合
    また、請負契約で特に代金の支払時期を決めていない場合には請負
    の目的物(仕事の完成物)を引き渡すことにより代金を支払ってもらう
    権利が生じます。

    同時履行といって目的物を引き渡すと同時に代金を受け取ることができ、
    相手が代金を支払わないのなら目的物の引渡しを拒むことができます。
    (民法633条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、
    支払わなければならない。)

    Dさんの場合は、支払日を当初の請負契約で(書面は無いが請負契約は
    存在します)取り決めをしてますが、決めてない場合は目的物の引渡し日
    となるのです。」
    「わかりました。
    E社の担当者は私が請求した際には、支払いしなければいけないことは
    認識していました。
    だから、『そんな契約はしていない』とは言わないと思うんですが・・・」

    「わかりました。
    E社が支払い義務を認識しているのであれば、訴訟になってもスムーズに
    いきます。
    相手が契約の存在等を否認すれば、証拠が無い場合や証拠力が弱い
    場合は(勝つために)困難な展開になります。

    それでは、早速催告書を発送して、同時に電話でE社の担当者に話をし
    てみましょう。」
    「お願いします」

    次回は相手方との交渉についてをお話します。

2016年6月16日木曜日

第1回 代金の返還請求~相手が仕事の不備を理由に代金を支払わない。

このブログでは、金融機関や不良債権処理業務の会社に在籍し、債権回収の実務経験者であるブログ作成者が自己の実務経験から代金・売掛金や貸金のトラブルに役立つ情報を 発信します。
当事務所のホームページ「債権回収専門サイト」で公開している相談事例や債権回収Q&Aから記事をご紹介します。

第1回は当事務所での相談及び依頼の事例のなかから、『契約代金の請求手続』について、 続編でお送りします。

契約(請負契約や売買契約)商品やサービスを提供したのに、代金を支払ってくれない。
巷によくある話です。

特に良くある例は「契約書をかわしていないんですよ」という相談が多いのですが、 契約をした何らかの痕跡はどこかに残っているので、なんとかなることが実は多いのです。



          Dさんの相談~契約書がない~
    「ちょっと相談したいんですが」
    近所のフリーのデザイナーのDさんが訪ねてきました。

    「どうしました?」
    「実は、ある会社(E社)からデザインの発注を受けて、できたデザインを
    引き渡したんですが、代金を払ってくれないんです。
    契約書を作成してないんですが代金を払ってもらうことは可能ですか?」

    証拠になるもの

    
「契約書がなくても、相手方に仕事の完成物を引き渡した記録や、
    請求書や見積書を送付した記録、また、支払いに関して相手方の応対の
    記録等、仕事の依頼を受けて仕事を完成し、相手に引き渡した事実がある
    限り、何らかの記録や痕跡が残っているはずです。

    それらが証拠になるので、契約書がなくてもあきらめることはありません。
    また、証拠が必要となる場合は、相手が、『契約をした事実は無い。

    代金を支払う義務は無い』と否認してくる場合ですが、実際仕事の依頼が
    あったのに、否認してくる場合は少ないです。

    契約書がないケースも結構ありますが、代金をとりかえした事例は多数
    あります。安心してください」

    代金の支払い時

    
「それではお願いします」
    「仕事を完成した時点で代金を払う約束をしたのですか?」
    「そうです。」
    「その日はいつですか?」
    「最終的にデザインを全部引き渡したのは昨年の○月○日です。
    その日に代金を払ってもらう約束でした。」

    代金請求権の消滅時
    
「そうすると1年半くらい経過してますね。
    というのは、請負契約の代金請求権(債権)は短期消滅時効になっていて、
    通常の債権よりも短い時間で時効により権利が消滅してしまうのです。
    (消滅時効)」

    「消滅時効って何ですか?」
    「消滅時効とは、権利を一定期間行使しない場合に権利が消滅する制度
    です〔民法166条~〕

    短期消滅時効というのは、民法上債権の消滅時効は10年であるところ、
    権利関係を迅速に確定させる必要から、短い期間で時効が完成してしまう
    債権があるのです。
    このことは短期消滅時効と呼ばれます。
    そして請負契約による代金を請求する権利は、2年間で消滅時効が
    完成します。
    (民法173条2号)

    Dさんの場合はあと半年くらいで消滅時効が完成します」

    消滅時効の援用

    「消滅時効が完成するとどうなりますか?」
    「消滅時効が完成した場合に、相手方が消滅時効を援用(自己の利益
    の為に消滅時効が完成していることを主張すること)すると、
    消滅時効が完成した効果としてDさんの請求する権利は消滅し、
    相手の支払い義務は法律上無くなります。」

    「相手が消滅時効を援用しない場合は消滅時効は完成しないんですか?」
    「その通りです。
    しかし、代金を約束どおり払わない人は(消滅時効の制度を知っていれば)
    援用することが多いです」

    消滅時効を知らなかった場合

    「相手が(消滅時効について)知らない場合はどうなるのですか?」
    「相手が消滅時効のことを知らなくて援用しない場合は消滅時効は
    完成しません。

    消滅時効等の法律上の規定を知らなくて不利益を受けても救済され
    ません。
    例えば、「債務の承認」は時効の中断と言ってこの承認行為によりこの
    時点から改めて規定の期間が経過しないと消滅時効が完成しないこと
    になります。

    振出に戻るわけです。

    仮に消滅時効の規定を知らないで「債務の承認」をした場合でも結果
    は変わりません。

    私は債務整理の仕事をやっていますが、貸金業者から訴訟提起されて、
    消滅時効の制度を知らなくて債務承認をしてしまった後に消滅時効の制
    度を知り、相談に来る方も多いです。

    しかし、一度法律上の債務承認をしてしまったら、(債務承認する前に)
    消滅時効が完成していたとしても、もうどうにもなりません」

    「法律って非情ですね」
    「そうですね。法律の諺に『権利の上に眠る者は保護されない』という厳しい
    諺があります。」

次回に続きます