2016年7月2日土曜日

第3回 代金の返還交渉 ~相手方との交渉~

    みなさん こんにちは

高知県(幡多郡)四万十市中村の司法書士事務所です

今回は 代金を払ってくれない相手方に「払ってください」と交渉する場面です。

特殊な場合を除いて、通常法的手続きを行う前に任意の交渉を行い、支払ってもらうよう努力します。

法的手続きは費用も時間もかかります。
このような手続を経ずに相手が任意交渉で支払ってくれれば、コスト面でも、時間面でも一番良いことです。

    E社との交渉
    司法書士がE社の担当者と話しをしたところ、
    担当者は「確かにDさんと請負契約を締結した。
    仕事の目的物も受領している。
    代金を支払っていないのは、受領した目的物が当社の要求水準に
    達していないからだ」
    の旨の主張をしました。

    「しかし、代金請求をした時点では代金の支払い義務を認めたうえで、
    支払いの猶予を求めていますよね。
    要求水準に達していることを前提としているのではないのですか?」
    「これ以上は、当社の委任した弁護士に対応してもらうので、
    そちらに連絡してください。」

    以上の内容をDさんに説明しました。
    「そういうこと(要求水準に達していない)は(今までE社から)言われたことは
    ありませんでした。
    しかし、仕事の目的物が要求水準に達していない場合は、代金を支払わなく
    て良いのですか?」

    仕事の完成品に欠陥がある場
    「民法では次のような定めになっています。
    注文者は仕事の目的物に瑕疵がある場合は瑕疵の修補を請求することが
    できる(民法634条1項)

    注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求
    をすることができる。(民法634条2項)
    仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することがで
    きないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。(民法635条)

    ※瑕疵とは 本来あるべき機能を有していないこと、欠陥があること

    瑕疵があった場合は損害賠償を請求することができるので、その損害賠償
    金額をもって請負代金との相殺をした場合は請負代金を実質減額したり、
    ゼロにすることが可能です。
    よって「代金を払わなくてもいいんだ」という主張の根拠としては上記の法律
    の定めがあるわけです。」

    審理
    
「要求水準に達しているかどうかが裁判で争われた場合は、どのように審理
    されるのですか?」
    「良い質問です。
    双方が『私は要求水準の目的物を作った』『目的物は要求水準に達しない』
    と争っている場合に裁判官がどちらのいうことが正しいかを判断します。
    正直、デザインとかの芸術的要素を有する性質の判定は難しい。

    例えば、建築業者が注文住宅の発注を受けて、建物を完成したところ、
    住宅の床が傾いていたり、窓が開かないとか客観的な事象があれば、
    欠陥住宅であることは誰が見てもあきらかですよね。

    しかし、例えば、「この絵画が100万円するものだ。」
    「いや、1円の価値も無い」と双方が争った場合は、客観的な評価が困難です。
    デザインが良いか悪いかはどうしても注文者の主観的な要素がある程度の
    範囲を占めます。

    しかし、主観的な要素が大きい場合に、代金を支払いたくないために注文者
    が「要求水準未達成」といえば、代金を支払わなくて良いことになり不合理です。
    他の事象から本当に要求水準に達していないかどうかの判断材料を探せるこ
    ともあります。

    注文者が目的物を活用しているかいないかの事実や目的物を引き渡した
    時点では「何ら瑕疵修補請求もしないのに代金を請求したら突然
    (瑕疵について)言い出したとかも判断材料のひとつになるかと考えます。」

    「また、瑕疵修補請求権(欠陥がある部分を修補するよう請求する権利)や
    損害賠償請求権、契約解除権は目的物引渡しの時から1年を経過してしまう
    とその後は行使することが出来ません。(民法637条1項)

    だからE社が目的物を受領していないと主張しない限り、代金の減額や支払
    わないとする主張は通りません。」
    「E社が目的物を受領していないと主張した場合に、引き渡したことの証拠が
    必要になるのですね。」
    「その通りです」

    その後、E社の代理人である弁護士から連絡がありました。
    主張の概要は以下の通りです。

    目的物の引渡しの事実を否認
    「代金請求についてですが、E社がDさんと請負契約を交わした点については
    認めます。
    代金が50万円と言う点についても同様です。
    しかし、Dさんが作成した目的物はE社の要求水準に達していないので、
    引渡しを受けていない状態です。
    よって、E社は支払い義務がありません」

    DさんにもE社の主張を伝えました。
    「引渡しをうけていないとはどういうことですか?確かに引き渡しましたよ。」

    「以前説明したように、引渡しを受けたことを認めると損害賠償請求の行使
    が(引渡しから1年以上経過しているので)できないことを知っているから、
    引渡しを受けてないと主張しているようです。
    これは裁判で争うしかないようですね」

    「私もE社の不誠実な態度には驚いています。
    今後もE社とは関りはないので今後の業務には影響しません。
    訴訟提起してください」

    次回は「訴訟手続」をお送りします。

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