2016年6月27日月曜日

第2回 代金の返還請求
~相手が仕事の不備を理由に代金を支払わない。
その2 代金請求のための準備

    「(消滅時効が完成するまで、)今から、半年くらい
    ありますが、急いで相手方に請求したほうが良いでしょう。

    消滅時効とは一定期間、権利が行使されないと権利が消滅
    する民法で定められている制度です

    具体的には内容証明郵便で催告書を送り、相手方に届いた日から6ヶ月
    以内に訴訟を提起すれば催告書を送った日がまだ消滅時効が完成して
    いない日であれば時効の中断になります」
    「お願いします」

    請負代金を請求するための準備事項

    証拠の収集

    「それでは、ひとつひとつ確認していきます。
    相手のE社との間で代金はいくらで取り決めましたか?」
    「50万円です。」

    「その金額について何か記録にのこっていますか?
    または、取り決めのときに誰か他にその場に居合わせた人がいれば
    証人になってもらう方法もあります。」
    「記録と言っても書面にはしていないし、
    会社の担当者と打ち合わせしただけですから・・・」

    請求の記録
    「見積り書や請求書は発行しました?」
    「いいえ、請求書なんかは作っていません」
    「あなたから、相手の会社に請求したときに相手の担当者は何と
    いってました?」

    「最初はそのうち払うと言ってましたが、いつまで経っても払われず、
    ずるずると今に至っています。」
    「その交渉の記録はありますか?」

    交渉の記
    
「電話で話したことに関しての記録は無いですが、メールで請求した
    ものについては返信の記録があります。」
    「それは、証拠になります。
    また、仕事の目的物であるデザインを相手方に引き渡した記録はありま
    すか?」

    仕事の完成品の引渡し
    
「全て電子メールの添付ファイルで送信したのでメールの送信記録があ
    ります。」
    「それも証拠になります」

    「相手に仕事の完成物を引き渡したことは重要なんですか?」
    「請負契約による代金請求の訴訟手続きでは『契約があったこと』
    と『仕事を完成した事実』を『請求する者』(訴訟手続においては原告とい
    います。この場合Dさん)が証明することが必要となります。

    相手が、上記事実を認めている場合は証拠等で証明する必要はないの
    ですが・・・
    代金を払わない人は往々にして「そんな契約はしていない」とか
    「仕事の目的物を受領していない」とか言う場合もあるので・・・

    代金支払時期を決めてない場合
    また、請負契約で特に代金の支払時期を決めていない場合には請負
    の目的物(仕事の完成物)を引き渡すことにより代金を支払ってもらう
    権利が生じます。

    同時履行といって目的物を引き渡すと同時に代金を受け取ることができ、
    相手が代金を支払わないのなら目的物の引渡しを拒むことができます。
    (民法633条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、
    支払わなければならない。)

    Dさんの場合は、支払日を当初の請負契約で(書面は無いが請負契約は
    存在します)取り決めをしてますが、決めてない場合は目的物の引渡し日
    となるのです。」
    「わかりました。
    E社の担当者は私が請求した際には、支払いしなければいけないことは
    認識していました。
    だから、『そんな契約はしていない』とは言わないと思うんですが・・・」

    「わかりました。
    E社が支払い義務を認識しているのであれば、訴訟になってもスムーズに
    いきます。
    相手が契約の存在等を否認すれば、証拠が無い場合や証拠力が弱い
    場合は(勝つために)困難な展開になります。

    それでは、早速催告書を発送して、同時に電話でE社の担当者に話をし
    てみましょう。」
    「お願いします」

    次回は相手方との交渉についてをお話します。

2016年6月16日木曜日

第1回 代金の返還請求~相手が仕事の不備を理由に代金を支払わない。

このブログでは、金融機関や不良債権処理業務の会社に在籍し、債権回収の実務経験者であるブログ作成者が自己の実務経験から代金・売掛金や貸金のトラブルに役立つ情報を 発信します。
当事務所のホームページ「債権回収専門サイト」で公開している相談事例や債権回収Q&Aから記事をご紹介します。

第1回は当事務所での相談及び依頼の事例のなかから、『契約代金の請求手続』について、 続編でお送りします。

契約(請負契約や売買契約)商品やサービスを提供したのに、代金を支払ってくれない。
巷によくある話です。

特に良くある例は「契約書をかわしていないんですよ」という相談が多いのですが、 契約をした何らかの痕跡はどこかに残っているので、なんとかなることが実は多いのです。



          Dさんの相談~契約書がない~
    「ちょっと相談したいんですが」
    近所のフリーのデザイナーのDさんが訪ねてきました。

    「どうしました?」
    「実は、ある会社(E社)からデザインの発注を受けて、できたデザインを
    引き渡したんですが、代金を払ってくれないんです。
    契約書を作成してないんですが代金を払ってもらうことは可能ですか?」

    証拠になるもの

    
「契約書がなくても、相手方に仕事の完成物を引き渡した記録や、
    請求書や見積書を送付した記録、また、支払いに関して相手方の応対の
    記録等、仕事の依頼を受けて仕事を完成し、相手に引き渡した事実がある
    限り、何らかの記録や痕跡が残っているはずです。

    それらが証拠になるので、契約書がなくてもあきらめることはありません。
    また、証拠が必要となる場合は、相手が、『契約をした事実は無い。

    代金を支払う義務は無い』と否認してくる場合ですが、実際仕事の依頼が
    あったのに、否認してくる場合は少ないです。

    契約書がないケースも結構ありますが、代金をとりかえした事例は多数
    あります。安心してください」

    代金の支払い時

    
「それではお願いします」
    「仕事を完成した時点で代金を払う約束をしたのですか?」
    「そうです。」
    「その日はいつですか?」
    「最終的にデザインを全部引き渡したのは昨年の○月○日です。
    その日に代金を払ってもらう約束でした。」

    代金請求権の消滅時
    
「そうすると1年半くらい経過してますね。
    というのは、請負契約の代金請求権(債権)は短期消滅時効になっていて、
    通常の債権よりも短い時間で時効により権利が消滅してしまうのです。
    (消滅時効)」

    「消滅時効って何ですか?」
    「消滅時効とは、権利を一定期間行使しない場合に権利が消滅する制度
    です〔民法166条~〕

    短期消滅時効というのは、民法上債権の消滅時効は10年であるところ、
    権利関係を迅速に確定させる必要から、短い期間で時効が完成してしまう
    債権があるのです。
    このことは短期消滅時効と呼ばれます。
    そして請負契約による代金を請求する権利は、2年間で消滅時効が
    完成します。
    (民法173条2号)

    Dさんの場合はあと半年くらいで消滅時効が完成します」

    消滅時効の援用

    「消滅時効が完成するとどうなりますか?」
    「消滅時効が完成した場合に、相手方が消滅時効を援用(自己の利益
    の為に消滅時効が完成していることを主張すること)すると、
    消滅時効が完成した効果としてDさんの請求する権利は消滅し、
    相手の支払い義務は法律上無くなります。」

    「相手が消滅時効を援用しない場合は消滅時効は完成しないんですか?」
    「その通りです。
    しかし、代金を約束どおり払わない人は(消滅時効の制度を知っていれば)
    援用することが多いです」

    消滅時効を知らなかった場合

    「相手が(消滅時効について)知らない場合はどうなるのですか?」
    「相手が消滅時効のことを知らなくて援用しない場合は消滅時効は
    完成しません。

    消滅時効等の法律上の規定を知らなくて不利益を受けても救済され
    ません。
    例えば、「債務の承認」は時効の中断と言ってこの承認行為によりこの
    時点から改めて規定の期間が経過しないと消滅時効が完成しないこと
    になります。

    振出に戻るわけです。

    仮に消滅時効の規定を知らないで「債務の承認」をした場合でも結果
    は変わりません。

    私は債務整理の仕事をやっていますが、貸金業者から訴訟提起されて、
    消滅時効の制度を知らなくて債務承認をしてしまった後に消滅時効の制
    度を知り、相談に来る方も多いです。

    しかし、一度法律上の債務承認をしてしまったら、(債務承認する前に)
    消滅時効が完成していたとしても、もうどうにもなりません」

    「法律って非情ですね」
    「そうですね。法律の諺に『権利の上に眠る者は保護されない』という厳しい
    諺があります。」

次回に続きます